2023年12月28日 (木)

AIの活用とアメリカ労働事情

AI先進国である米国では、先進的なビジネス事例が数多く発生しています。
日本と米国とでは、社会の成り立ちが異なりますが、
米国で起きた事象が、時間をおいて日本で起きることもありますので、紹介いたします。

Ⅰ.本年5月から9月下旬まで、全米脚本家組合(WGA,組合側)が、
ストライキを決行し、世界的な話題になりました。
これは、NetflixやDisneyなどが加入する全米映画テレビ制作者協会(AMPTP,スタジオ側)に対し、
待遇の改善を求めたものです。

WGAが求めたものの一つは、AI活用の規制でした。
組合側は、AIに脚本を書かせたり、AIにアシスタントの役割をさせることにより、
一つの作品に係る脚本家の人数が減ることを懸念し、
AIの活用を規制することを、スタジオ側に求めたのです。

このストライキにより、ハリウッドの映画やドラマなどの制作が中断され、
社会的に大きな影響を与えましたが、
9月27日に両者が正式に合意し、ストライキは終了しました。

AI活用規制に関しては、組合側もスタジオ側も、
AIを使用することを禁止されないことを前提としながら、
脚本家の報酬が減少するような形ではAIを使用しないことで合意しました。

また、「会社が同意すれば、脚本家は執筆作業時にAIを使用することができるが、
会社は脚本家に対して、執筆時にAIソフトウェアを使用することを要求できない」と、
基本契約書に規定されました。
関連して、一つの作品のライター室における脚本家の雇用人数につき、
エピソード数に応じた最低人数を設定することで合意しました。

このように、かなり組合側の主張に沿った内容となっている一方、
合意の有効期限は2026年5月31日までとなっていますので、
その後どうなるかも注目すべきところです。

 

Ⅱ.ニューヨーク市は、本年7月、企業の採用活動等におけるAIの活用を規制する条例を施行しました。
米国では、特に大企業において、採用プロセスや人事評価の場面で、
AI機能を持つ自動雇用決定ツール(AEDT)を利用する企業が増えています。
一方で、こうしたツールは、性別や人種等に基づく偏見を伴う過去のデータが蓄積され、
その活用によって雇用差別が発生しないかが、懸念されています。

こうした懸念に応える形で、ニューヨーク市の条例は、AEDTを使用する企業に対して、
①使用前に「バイアス監査」がなされること、
②監査結果をウェブサイトに掲載すること、
③従業員や求職者にAEDTの使用を通知すること、
④AEDTに使用されるデータの種類とデータ保持ポリシーをウェブサイ卜に掲載すること、
を義務付けました。

バイアス監査」は、独立した第三者である監査人が行い、
性別、人種等のカテゴリーにおける選択率や影響率を計算します。
企業は、その結果に基づき、必要な措置を講じる義務があります。
違反企業には、違反ごとに1,500ドル以下の罰金が課せられます。

 

このように、米国では、ビジネスにおけるAIの活用が進んで労働市場に影響を与えている反面、
これを抑制しようとする流れも見てとれます。
今後の日本ではどうなるのか、注目されます。

 

 

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≪2023年12月1日発行 マロニエ通信 Vol.250より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie