2023年10月26日 (木)

越境リモートワークの社会保険と労務管理

以前、日本から海外現地法人向けに、
リモートワークで役務を提供する場合の税務関係について、取り上げました。

今回は、日本の会社と雇用契約を結んだうえで、
海外の自宅(現地法人等でなく)から、当該日本の会社に
リモートワークで役務を提供する場合の
社会保険と労務管理について、纏めました。

一番多いパターンは、日本の会社に勤務していた社員が、
配偶者の海外転勤に帯同することになった際、
退職することなく、越境リモートワークで雇用を継続するものです。

その次に多いパターンとしては、
母国で生活している外国人が、日本の企業と縁が生まれ、
越境リモートワークの形で新たに雇用されるというものです。

 

1.労働災害保険

海外にある自宅は、会社拠点とはみなされないので、
労災の特別加入制度の対象にはなりません。
日本国内の企業から直接指揮監督を受けますので、
国内勤務の社員と同じ扱いで、労災適用となります。

 

2.雇用保険

雇用保険業務取扱要領(令和5年4月1日版)には、
「国外で就労する者、その者が日本国の領域外にある適用事業主の支店、
出張所等に転勤した場合には、被保険者となる。
現地で採用される者は、国籍のいかんにかかわらず被保険者にはならない」
とあります。

よって、日本での勤務から越境リモートワーカーとなる場合は、
雇用保険に引き続き加入し、
元々海外にいる人が越境リモートワーカーとして採用される場合は、
被保険者とならないのが基本と考えられます。

ただし、個々の事情や役所ごとにより判断が分かれる可能性があるので、
案件ごとにハローワークに確認すべきと思われます。

 

3.健康保険・厚生年金保険

本給が日本国内の会社から支払われている場合は、
越境リモートワーカーでも被保険者資格を持つと考えられます。
なお、海外では日本の健康保険証は使えませんので、
医療費は一旦本人が全額支払い、後ほど海外療養費を請求します。

 

4.介護保険

介護保険の被保険者は、市区町村の区域内に住所を有する者です。
よって、介護保険適用除外届を提出することにより、適用除外となります。

 

リモートワークの労務管理に関しては、国境を超えるという特殊性を考慮する必要があります。
物理的に海外で勤務していますので、現地の労働法も適用されます。

例えば、休日や時間外労働についての強行法規があれば、これに従わなければなりません。
また、リモートワークとはいえ、現地で就労することになりますので、
合法的に就労できる在留資格(ビザ)が必要になってきます。

税務については、国税庁としては、社員の物理的な役務提供場所によって、
源泉所得税の課税の有無を判断しており、それは越境リモートワークでも同じです。

一方、現地国において、社員の自宅を支店PEとみなすなどのアグレッシブな課税により、
日本の本社が法人課税されるリスクにも注意が必要です。

上記のとおり、越境リモートワークの実施は、
会社にとって留意点が多いことは事実ですが、
優秀な人材を確保しうるという、大きなメリットがあります。

越境リモートワークへの柔軟な対応のため、
不安な点は、案件ごとに役所に確認することが重要です。

 

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≪2023年10月1日発行 マロニエ通信 Vol.248より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie