2023年09月28日 (木)

海外駐在員の退職・帰国に関する留意点

最近、海外に駐在する社員の退職に関するご相談を連続していただきました。
具体的内容としては、退職金や帰国費用の税務に関するものが一番多いですが、
人事労務に関するご相談もありました。

海外駐在員が退職した場合の退職金等の扱いについては、就業規則退職金規程
または海外赴任規程海外出向契約書などで規定されるべきであり、
そもそも退職金が支給されるのか、海外出向期間をどう扱うか、
退職後の帰国費用をどうするかなど、予め確認しておくべきです。

税務上は、退職金が居住者に対するものか、非居住者に対するものかで、
結果が大きく異なります。
所得税法上、その判定は、支払債務の確定時、
すなわち退職日において判定されます(所基通36-10)。

多くの場合、海外駐在員の退職は、非居住者として課税され、
国内勤務に起因する部分に対して、20.42%の源泉徴収を受けます。
(国内勤務期間÷退職金総額計算の基礎となった期間×退職金総額×20.42%)

なお、これは日本からの課税についてであり、現地での課税は別問題です。
日本と租税条約を締結している国であれば、
その規定も確認する必要があります(例:日米租税条約第14条)。

当該社員が、日本に帰国してから退職するのであれば、
退職金は、居住者に対する支給、
すなわち、他の国内勤務の社員と同じ扱いになりますので、
会社の事務負担の点ではシンプルとなります。

ただし、現地での課税が発生し、
社員本人が、日本での確定申告で、外国税額控除を申請すべきケースもあり得ます。

退職する海外赴任者の帰国費用については、
海外赴任規程などの社内規程で定めておくべき事項であり、
規定があって適正な実費であれば、所得税非課税として扱われる可能性が高くなります。

逆に、そうした規定がないまま支給してしまうと、
退職所得として扱われ、課税されてしまうリスクが高くなります。

なお、退職前に海外赴任を解き、日本に帰国させるという選択肢もあります。
その場合には、業務命令による帰国となりますので、
帰国費用の会社負担に、税務上の問題は発生しません。

人事労務上、会社としては、競業避止、顧客名簿や物品の持ち出しの禁止、
社員引き抜きの防止、情報漏洩の回避に留意すべきです。

これらは海外駐在員の場合に限りませんが、
日本の本社からの眼が届きにくいので、そのリスクはより大きくなります。
完全に防ぐことは難しいですが、誓約書等、形式面は漏れのないようにしたいものです。

会社によっては、コストを上回るメリットがあると判断すれば、
退職時の誓約書の取り交わしや、会社からの貸与品の返還のため、帰国させるケースもあります。

 

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≪2023年9月1日発行 マロニエ通信 Vol.247より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie