2023年08月31日 (木)

外国人材の定着

企業にとって人材の定着は大きな課題ですが、
一般に外国人材の定着は、さらに難しいと言われています。

最近、経済産業研究所(RIETI)とインディアナ大学のヒラリー・ホルブロウ准教授が、
興味深い論文を発表されていますので、共有いたします。

先ず、未熟練から中熟練の外国人材と、専門知識を持った外国人材とは、
分けて考える必要があるとされています。

前者の典型は、技能実習生や特定技能の外国人材であり、
比較的容易に技能を取得できる分野での人材です。
企業としては、技能実習生であれば、2号修了までの3年間、
または特定技能1号の期間をプラスした計5年間が、
ひとまず定着してもらいたい期間の目安となります。

これは、それを超えた長期間となると、昇給を求められて対応が難しい、
という事情が反映されています。
いわば、3~5年を単位として、労働力が循環することを前提とした考え方です。

そのためには、先ずは日本で働く意欲のある人材を採用しなければなりませんので、
現地送り出し機関との連携を密にするなど、採用に工夫が必要となります。

また、人材の育成と定着に関しては、日本語能力試験(JLPT)の級数に則した手当金、
客観的な成績評価のためのチェック制度など、インセンティブ付与が重要になります。

 

 

一方、専門知識を持つ外国人材、すなわち、
技術・人文知識・国際業務や高度専門職の在留資格を持つ人材
となると、景色が全く変わってきます。

企業としては、10年単位で定着して欲しいと願い、
中核的人材として育成したいと希望しています。

しかし、実情としては、こうした外国人材の離職率は、日本人より高いという統計があり、
中核的といえる地位まで到達できた人材はごく一部です。
その原因としては、特に、キャリアの発展性、長時間労働、
日本人との区別が大きいという調査結果があります。(2018 年RIETI 調査)

 

これらの問題点の解決のため、日本の企業が導入する対応策としては、
外国人に特有のキャリアパスを用意すること、および成果主義の評価システムがポピュラーです。

しかし、一見有効な解決策に思えますが、ホルブロウ准教授の研究によると、
これらの施策は、外国人の賃金に対して、
短期的には正の影響を与えますが、長期的には負の影響となるとされました。

その理由は、ジョブローテーションの機会が減って、昇給のチャンスが限られるということ、
および成果主義は、結局上司の主観的評価に基づく部分が大きく、
長期的な賃金上昇幅は、年功序列による伸びより小さくなる、というものでした。

では、どうすれば良いのかという解決策の提示は簡単ではないですが、
例えば、日本人と区別しない扱いをすること、そして何より、
日本人も含めた全体の仕事満足度を高めることが必要、と結論づけています。

当たり前のことが、王道であると聞こえます。

日本社会における外国人の受容は、移行時期と言えます。
長期的には、試行錯誤を繰り返しながら、徐々に定着していくのではないでしょうか。

 

 

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≪2023年8月1日発行 マロニエ通信 Vol.246より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie