2023年05月25日 (木)

海外出張をめぐる税務

社会がウイズコロナの時代になりつつあり、海外出張も活発になってきました。
海外赴任に比べると、海外出張に関わる税務に注意が払われることは少ないですが、
現地当局から多額の追徴課税をされた企業からのご相談を受けたことがありますので、
ここで簡単にまとめてみます。

支度金の課税

海外赴任時には、規模の大小を問わず殆どの会社が支度金を支払いますが、
海外出張時でも、その機会の多くない中小企業では支度金を支払うことがよくあります。

国税庁は、「海外渡航が業務の遂行上必要であり、かつ渡航に通常必要と認められる部分の金額に限り
旅費として法人税上の損金性を認め、ひいては社員が給与課税されないとしています。
(法人税法基本通達9-7-6~7等))

初めて海外出張する場合の、スーツケースや変圧器の実費程度であれば問題ありませんが、
支払う金額や頻度については、指摘される可能性を考えておきましょう。

 

現地での所得課税

基本的に、数日から数週間程度の単発の出張で、給与等が日本の会社からだけ支払われている場合は、
現地での所得課税について心配する必要はありません。
しかし、特に中小企業では、海外出張する社員が一部に偏り、
出張期間が長くなったり、頻繁だったりすることから、課税リスクが発生することがあります。

日本から租税条約を締結している国(令和5年3月現在81ヶ国)に出張するときは、
短期滞在者免税」と言って、
現地での滞在期間が原則183日以内であり(滞在日基準)、
出張先の現地法人等が給与等を負担しておらず(PE負担基準)、
日本の会社が給与等を全額負担している場合(支払地基準)、
3つの要件を満たしており、現地での個人所得課税は発生しません。

逆に言えば、現地での滞在日数が183日を超えたり、
出張者の給与等の一部でも現地法人等が負担していれば、
免税の要件を満たさず、現地で個人所得税を申告納税する義務が生じます。

また、183日と言いますが、租税条約により、
入出国日を滞在日数に含む国含まない国
一課税年度で183日以内とする国(中国・韓国等)と継続する12ヶ月のうち183日以内とする国(米国等)
がありますので、国による違いに注意しましょう。

実際にご相談があった例として、
ある大手企業がチームごと米国に長期出張させたところ、
短期滞在者免税の要件を満たさないとして、
米IRSから日本円換算で千万円単位の追徴課税をされたことがありました。

 

PE課税

出張者が現地で建設工事の監督等を行い、当該業務により日本の会社が利益を得ている場合、
現地課税当局が「日本の会社が現地に恒久的施設(PE)を保有している」とみなし、
日本の会社が得た利益に対して法人税を課す可能性があります。

どのような施設や活動がPEに該当するかは国によって異なり、
日本と出張国との租税条約を確認する必要があります。

中国とインドは、PE課税において特に注意すべき国と言われています。

 

上記の他にも、出張者の費用負担についての寄附金課税のリスクなど、
海外出張でも税務上の問題がでることはあり得ます。

 

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≪2023年5月1日発行 マロニエ通信 Vol.243より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie