外国人社員の退職・帰国に関する留意点

コロナ禍に伴う出入国規制が緩和され始め、人の往来が増加してきました。
外国人社員が退職に伴い帰国する場合の相談を多くいただきますので、
改めて留意点をまとめてみます。

 

1.各種手続き

外国人が本国に帰国するにあたっては、市区町村で転出届を提出し、
同時にマイナンバーカードを返却する必要があります。
また、在留カードも、空港等において、出入国管理当局に返却する必要があります。

特に、転出届を怠ると、帰国後も住民税を課税されるおそれがありますので、注意が必要です。

 

2.給与計算

外国人が自己都合で退職し帰国する場合、
退職時には帰国の時期が判明していないこともあります。
この場合、その後帰国自体がなくなる可能性もありますので、
会社は年末調整を行う義務はありません。

一方、外国人社員の最終給与の「支給日」が出国後となり、
支給日時点では非居住者となっていることもあります。
その場合は、会社は20.42%の所得税の非居住者源泉徴収を行う必要があります。
(給与の計算期間全部が、国内源泉所得であった場合)

 

3.退職金

外国人帰国時の退職金への課税は、月例の給与とは異なり、
「退職日」で判断されることから、要注意です。
たとえ退職金の支給日には出国済みで非居住者であっても、
退職日時点で居住者であれば、退職所得控除を適用した、通常の退職金計算となります。

これに対して、有給休暇を消化してから退職する等の理由により、
退職日時点で既に出国して、非居住者となっていることもあります。
その時は、退職金の計算期間のうち居住者である期間の勤務部分が国内源泉所得となり(退職金の額×居住者勤務期間/退職金計算期間)、
この金額に20.42%を乗じた税額を源泉徴収することになります。

この場合、翌年の確定申告において、本人の選択により、
居住者と同じ課税方法を適用してもらい、税額の還付を受けることができますが(所得税法173条)、
後で還付されるからといって、最初から居住者扱いすることは許されず、
先ずは会社が源泉徴収して、後から本人が確定申告するという手順を踏む必要があります。

ほんの数日の違いで、大きな税額の違い、手間の違いが発生する可能性がありますので、
不安な場合は事前に専門家に確認いただいた方がよろしいでしょう。

 

4.厚生年金の脱退一時金

脱退一時金の受給は、日本国籍でない社員のみに認められる制度で、
日本を出国した外国人社員に、それまで支払った厚生年金保険料が掛け捨てにならない趣旨で支給されるものです。

まとまった金額の支給になり得ますので、
出国から2年間の請求期間中に忘れずに請求するよう周知すべきであると共に、
いくつかの留意点もあります。

まず、脱退一時金を受給すると、日本での年金記録は消去されますので、
母国の年金との加入期間の通算もできなくなります。
よって、将来再び来日して働く可能性がある場合などは、
そもそも受給を申請するのか、慎重に検討する必要があります。

また、脱退一時金は、税務上、非居住者の退職所得となりますので、
20.42%の源泉所得税徴収の対象となります。

 

外国人の在勤中の社会保険手続きや給与計算は、日本人と大きく異なることはないですが、
上記にあるように、退職・帰国時には留意すべき点がいくつかありますので、
不明な点は専門家にご相談ください。

 

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≪2023年3月1日発行 マロニエ通信 Vol.241より≫
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