2023年02月22日 (水)

海外有事への備え

昨年は、コロナパンデミックに加え、ロシアによるウクライナ侵攻が発生し、
世界に衝撃が走りました。
リスク管理コンサルタントの友人達には、多忙な年だったようです。

戦争や感染症でなくとも、会社の人事部門が対応を迫られる事態は、しばしば起きています。
平成13年9月の米国同時多発テロ事件が典型です。

テロによる大事件でなくとも、令和3年2月のミャンマーにおける軍事クーデターでは、
現地情勢の緊張が高まり、現地駐在員や帯同家族を国外退避、
または一時帰国させた会社は、少なくありませんでした。

では、こうした海外有事に対して、会社の人事部門はどのように備えれば良いのでしょうか。
先ずは、「誰がするか」「何をするのか」を確認する必要があります。

「誰がするか」とは、海外渡航者の安全確保の責任者および担当者を決めることです。

「何をするのか」は、①平時の海外安全・危機管理の業務内容、
および②有事の業務内容および役割分担を決めておくことです。

 

最も大切なことは、「平時にどこまで準備できていたか」です。
これができていれば、有事での対応が迅速・有効・効率的となります。

平時に人事部門が準備しておくと望ましいことは数多いですが、
代表的なものを挙げると、以下の通りです。

 

a.各種規程・海外危機管理マニュアルの整備
中小企業では、策定しているころはまだ少ないのが現状です。
専門家に支援を求めながら、海外拠点で想定される事象に応じたマニュアルを策定し、
適宜アップデートすることが望ましいと言えます。

b.緊急連絡網の整備
海外有事が発生した場合、初動が大切になりますので、
緊急連絡網を定めておく必要があります。

c.駐在員・出張者情報の把握(家族一覧等)
海外有事において、最優先事項は、自社渡航者と家族の安否確認です。
駐在員とその家族だけでなく、出張者も確認できるようにすべきです。

d.海外情勢の情報収集・共有
現代では、ネットや SNS による情報収集は容易になりましたが、
通信社やセキュリティ情報会社の提供する有料情報を購入するのも選択肢の一つです。

e.海外拠点・出張先のリスク分析
外務者の「海外安全ホームページ」が、リスク分析の第一歩でしょう。
民間のリスク情報会社の中には、現地拠点を訪れて、
駐在員の業務や日常生活に潜むリスクを洗い出すセキュリティ脆弱性調査(SVA)を行うところもあります。

f.海外渡航者への安全対策研修および有事発生時の対応訓練の実施
現地での対策について、自社の前任者や外部の専門家を招いて、講義や再現訓練を行います。
海外で日本人渡航者が最も多く巻き込まれる事件は、盗難・強盗です。

g.有事対応アシスタンス会社との連携
医療アシスタンス会社やセキュリティ・アシスタンス会社との連携は有効です。
前者は、現地で対処が困難な疾病や傷害が発生した際、医療先進国への移送などをサポートします。
後者は、大規模な有事が発生した際、緊急国外退避を支援したりするものです。

 

率直に申して、大企業向けのリスク管理サービスは、
コスト面でも、会社の受け入れ体制の面でも、ハードルは高いですが、
中小企業バージョンのサービスを提供している業者も存在します。

有事の場で本社がパニックとなり、海外渡航者の安全が損なわれることのないよう、
できる範囲で備えておくことは、重要と思われます。 

 

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≪2023年2月1日発行 マロニエ通信 Vol.240より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie