2022年10月27日 (木)

源泉徴収に注意

先日、三菱電機が、世界的なコロナ禍の影響で一時帰国していた海外赴任者に支払った給与につき、
東京国税局より所得税の源泉徴収漏れを指摘されていたことが、大きく報道されました。

同社は、一時帰国した社員が海外赴任先向けの業務を続けていたため、
日本の本社が給与を支払ったものの、課税対象にならないと判断していたようです。

日本の所得税法では、海外勤務等で日本に住まなくなった人(「非居住者」)でも、
国内で働いた分の給与(「国内源泉所得」)には、
所得税が課税され、源泉徴収が必要と定めています。
国内で働いたという事実がポイントとなり、
どの会社(日本の本社か海外子会社)が対象かは関係ありません。

これは国際課税の基本であり、
同社のような大企業が、この解釈を間違えたというのは驚きですが、
結果として同社に対しては、
不納付加算税を含めて約 1 億 4 千万円もの巨額の追徴課税がなされました。

この応用編とでも言うべき案件を今回はご紹介します。
海外の子会社に赴任する予定だった社員につき、
現地でのコロナ禍が厳しい現状に鑑み、当面の間出国させず、
国内の自宅でリモートワークにより、海外子会社向けの業務を行うとする場合
課税関係はどうなるのか、というものです。

結論は、日本の所得税法上、国内に住所を有し、
または現在まで引き続き 1 年以上居所を有する個人は「居住者」とされ、
国内外から生じる全ての所得に課税されます(全世界所得課税)。

また、所得税法 183 条は、居住者に対して国内において給与等の支払いをする者は、
その支払いの際、所得税を源泉徴収し、国に納付する義務を負います。

ここでいう「国内において給与等の支払いをする」(国内払)とは、
国内にある事務所等がその支払事務を行うものを指します。
よって、海外の子会社が支払事務を行うなら、
「国内払」でなく「国外払」となります。

上記を総合すると、当該社員は国内の自宅にそのまま住むため、
「居住者」となります。
日本の本社から給与の支払いを受ける場合は、
たとえ海外子会社のための仕事をしていても、「国内源泉所得」の「国内払」となり、
日本の本社は給与から源泉徴収を行い、国に納付する義務を負います。

一方、当該社員が海外子会社から給与の支払いを受ける場合は、
「国内源泉所得」ですが「国外払」となるので、
誰かが給与から源泉徴収する必要はありません。

しかし、「居住者」として全世界所得課税の対象となるため、
当該社員は海外子会社からの給与分について、
翌年3月15日までに確定申告する必要があります。

もし当該社員が、日本の本社と海外子会社の両方から給与の支払いを受けている場合は、
この両方の処理が必要です。
すなわち、日本の本社からの給与について本社が源泉徴収したうえ、
日本の本社からの給与と海外子会社からの給与を合わせたものを、
翌年本人が確定申告します。

最近、国境を越えたリモートワークは急増していますが、
日本の所得税法は、諸外国に比べても源泉徴収義務が厳しく、
特に不納付加算税は、納付が1日でも遅れたら、本税の10%が課されるという、
とても厳しいものです。

誰もが知る大手電機メーカーでも、現実に源泉徴収漏れが起こっていますので、
改めて社内で注意喚起しておくべきでしょう。

 

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≪2022年10月1日発行 マロニエ通信 Vol.236より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie