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急激な円安傾向が続いています。
膨れ上がった政府債務(国債)のことを考えると、
利払いが増えて国債価格が下がる利上げ政策は取りづらいので、
低金利誘導政策のまま、内外金利差による円安がスパイラル状態で継続するものと懸念されます。
円安は、海外赴任者の給与に大きく影響を与えますが、
最近では、会社の人事部門にとって、さらに心配な事態も起こっています。
海外駐在員の海外給与の決定方式が、購買力補償方式であれ併用方式であれ、
為替が円安に振れると、同じ円価給与でも現地通貨換算金額は減少してしまい、
駐在員にとっては大きな不満の基となってしまいます。
この問題を解消する方法は、大きく三つあります。
一つ目は、
海外給与は現地通貨建で固定し、現地法人から支払う方法です(後で日本の本社と現地法人の間で精算)。
日本の本社が為替リスクを負うことになりますが、
駐在員自身には為替リスクはなくなります。
現地法人に現地職員がいるなど、
ある程度の大きさのオペレーションになれば可能なスキームです。
二つ目は、
先物為替予約により、将来の為替レートを確定しておく方法です。
経理部門に、駐在員給与分も為替約定を依頼します。
三つ目は、
定期的に海外給与換算のための社内為替レートを見直す方法です。
例えば半年ごと、あるいは一定割合以上に変動した場合に、
為替レートを見直し、必要な場合には補填する手当を支給します。
この作業であれば、本社の人事部門だけで作業を完結できます。
円安は古くて新しい問題と言えますが、
直近では、海外駐在員が現地通貨をそもそも入手できないという
由々しき事態が、現実のものになっています。
本年2月の対ウクライナ侵攻により、ロシアは国際的な経済制裁の対象となり、
国際金融システムから排除されてしまいました。
このため、ロシア国内ではVISAなどの国際クレジットカード決済が不可能となり、
日本からロシア国内銀行への送金もできなくなりました。
結果として、残留している日本からの駐在員は、日常生活に必要な買い物すらできず、
極めて困難な状況におかれています。
これに対して、本社から同国への出張者が、駐在員のために持ち込み限度額一杯の現金を運ぶ、
または駐在員が、中東欧の周辺国に出国して、そこの銀行でドルまたはルーブルを引き下ろすという、
原始的な対応策が取られているようです。
円安により海外給与が目減りするのも問題ですが、
テロや戦争が原因で、当該国が国際的な制裁の対象となり、
駐在員が現地通貨を調達できないという事態も、
稀とはいえ、現実に想定すべきシナリオになっています。
財務部門のみならず、人事部門のスタッフも、
現地通貨調達について、注意を払うべき時代になってきたと言えるでしょう。
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≪2022年9月1日発行 マロニエ通信 Vol.235より≫
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