海外勤務者の労務

コロナ禍に加えて、ロシアがウクライナに侵攻し、
海外勤務者のいる会社にとって、その労務管理は一筋縄ではいかなくなってきています。

前提を確認しますと、海外勤務は、大きく海外出張海外派遣に分かれます。
前者は、労務の提供は海外でも、国内の事業場に帰属し、その使用者からの指揮・監督に服します。
後者は、海外の事業場に属して、そこからの指揮・監督に従って勤務します。

後者の場合、多くは国内事業者との雇用契約は継続しており、
その範囲で国内事業者の使用者も、海外派遣された勤務者に対して責任を負うことになります。

以下、主に海外派遣のケースについて、
最近問題になることの多い労務上の注意点を述べさせていただきます。

 

 

I.メンタルヘルスケア
海外に社員を赴任させる会社も、労働契約法第5条等に規定された安全配慮義務を負いますが、
特に問題となりやすいのが、メンタルヘルスケアについてです。

海外赴任先では、職場も生活も日本とは環境が大きく異なり、
一般的に日本人スタッフは少ないために業務量が多く、病気休暇も取得しづらい傾向にあります。

また、精神疾患に罹患する割合は、赴任者本人が3割、配偶者が4割、子どもが3割という統計もあり、
家族全体にストレスがかかり得ることも特徴です。

厚生労働省は、「職場における心の健康づくり」というガイドラインにおいて、4つのケアを強調していますが、
海外の職場では以下のポイントに留意すべきでしょう。

●セルフケア・・ケアの資源が少ない海外では早めの「気づき」が肝要であるため、セルフチェックを促す
●ラインによるケア・・定期的なWEB会議などによる密なコミュニケーションを取る
●事業場内産業保健スタッフ等によるケア・・海外事業場における、海外勤務者用の窓口設置などが考えられる
●事業場外資源によるケア・・外部団体の利用も視野に、日本語対応の窓口を設置することも検討する

 

II.リスク管理
海外赴任者は、日本では想像できないような事態に遭遇する可能性があります。
一般論としては、リスクが顕在化した時には、赴任者を含めた従業員の安全確保が第一優先です。

続いて、会社の業務資源(モノ、カネ、情報等)を守ることにより、事業を継続させます。
そのためには、BCP(事業継続計画)を策定しておき、何が起きたのか、何が足りないのか、
何をいつまでにしなければならないのかを迅速に把握して、対応する必要があります。

代表的なリスク要因と対応策を、以下に列挙します。

●ハリケーン等の自然災害・・事業場内に食料、発電機等を備蓄しておく
●テロ、戦争・・緊急避難の計画を策定し、緊急時連絡先をネットワーク化
●疾病の流行・・信頼できる病院を確認し、リモートワークの環境を整備する
●治安・・事業場・住居のセキュリティレベルを高くする
●賄賂・汚職・・コンプライアンス担当者による監査を実施する
●労使間トラブル・・現地労働組合と十分コミュニケーションをとる

 

メンタルヘルスケアやリスク管理につき、
中小企業が手厚い対策を講じておくことは、現実的には難しいでしょう。
しかし、最初から諦めるのではなく、できることを優先化しながら準備することで、
影響を最小限に抑えることが可能であると考えられます。 

 

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≪2022年7月1日発行 マロニエ通信 Vol.233より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie