2022年05月26日 (木)

「週4日労働というトレンド」

週40時間労働、すなわち、1日8時間・週休2日制という働き方は、
長く先進国のスタンダードとして定着してきました。
しかし、直近のコロナ・パンデミックの中で、
労働時間を短くする試みが欧米では見られるようになってきました。

日本では、戦後1947年に労働基準法が成立した際には、
1日8時間・週休1日制、つまり週48時間労働が基準として規定されていました。
その後、1987年の法改正で週40時間労働が定められ、
経過措置を経て1993年に週40時間労働が実施され、現在に至っています。

そもそも週40時間労働というスタンダードは、約100年前に米国で成立したものです。
フォード社を創立したヘンリー・フォードは、効率的に工場で自動車を製造するという観点から、
1926年に1日8時間・週5日勤務の労働時間制を導入し、他の大企業も追随するようになりました。

多くの企業でこの慣行が定着したところで、
1938年に連邦法としての「公正労働基準法(FLSA)」が制定され、
該当する労働者は週40時間労働が基準となり、この時間を超える労働には、
通常の賃金の1.5倍以上の率で賃金が支払われねばならない、と定められました。

これは労働時間自体を規制するのではなく、
時間外労働に対する割増賃金の支払いという金銭的負荷を企業にかけることにより、
労働時間の短縮を図ろうとしたものです。

米国のような社会の変容の激しい国で、
労働時間という重要なスタンダードが約100年間変わっていないことは驚きですが、
この度のコロナ・パンデミックの影響により、これが変わる兆しが見えています。
労働者が便利で快適な在宅勤務に慣れると同時に、
オフィスへのフルタイムでの出社復帰を拒む事例の激増に対応したものです。

 

 

2021年8月には、カリフォルニア州選出の民主党下院議員マーク・タカノ氏が、
ほとんどの米国の労働者の労働時間を短縮し、
週40時間労働を週32時間労働に変更する法案「The Thirty-Two Hour Workweek Act」を連邦議会に提出しました。
この法案は、労働者が週32時間を超えて働いた場合には、
FLSAの下で雇用主が割増賃金を支払うことを求めており、
連邦議会で継続審議されています。

また、キャシー・ホークルNY州知事やエリック・アダムスNY市長は、
本年3月のニューヨーク・ポスト紙の取材に対して、
今後は多くの企業は週休2日制には戻らず、週4日または3日半労働になるかも知れない、
と述べています。
これは、雇用主が労働者をフルタイムで復帰させるのに苦戦しているため、
週の労働時間は短くなっていくだろうという認識に基づくものです。

一方、英国では、本年1月から、30以上の企業で週4日労働の導入トライアルが始まっています。
トライアル参加企業の労働者は、これまでと同じ週35時間までの労働を求められますが、
働く日数は週5日でなく4日となり、給与金額は変わらないとのことです。

上記のような欧米における週4日労働制の胎動が、いつ日本に伝わるかは分かりません。
ただ、約100年間変わらなかった米国での基準すら変わろうとしておりますので、
今の時点でこの流れを知っておくのは、意味があることではないでしょうか。

 

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≪2022年5月1日発行 マロニエ通信 Vol.231より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie