2020年11月26日 (木)

長期化する“一時帰国”

コロナ禍のもと、海外駐在員の一時帰国が長期化しています。
世界中の駐在員が一斉に帰国する事態は稀ですが、さらにそれが長期化することは前代未聞であり、
企業の人事部門もこれまで経験のない対応に追われています。

そもそも一時帰国と言いながら長期化、それでいながらいずれは駐在国に戻る人材なので、
人事部門としてはどんな仕事をしてもらうべきか、判断が難しいです。

また、給与体系についても見直しが必要となってきます。
通常、海外駐在員は、国内勤務の時とは異なる処遇がなされますので、
一時帰国が長期化すると、公平性の観点からの配慮が必要になってきます。
典型的には、ハードシップ手当を帰国中にずっと支払い続けるのは、合理的とは言えないでしょう。


最も留意すべきは、税務上の取り扱いです。

当初短期間の予定であった日本滞在が長期化し、一般的には183日間を超えた場合
短期滞在者免税の特典から外れてしまいます。
つまり、日本で支払われる給与・手当は20.42%の非居住者源泉課税の対象となり、
会社は駐在員が日本に帰国した日に遡って徴収する必要があります。

また、これは駐在国と日本との租税条約が影響するため、
正確な基準が183日間かどうかは、当該国との租税条約を確認する必要があります。

さらに日本滞在が延長されて、帰国した日から1年間を超えれば、
その駐在員は所得税法上の「居住者」となりますので、全世界所得課税の対象となり、
駐在国で支払われた給与・手当も含めて、日本で確定申告する義務が発生します。

所得税のみならず、法人税上のリスクも発生します。
駐在員の日本での帰国期間が長くなると、その駐在員自身が駐在国法人の恒久的施設(PE)とみなされて、
駐在国政府から法人税課税を受ける可能性が発生します(PE課税)。
このため、駐在国各国の法人税制も確認する必要があります。


これまで、駐在員が急遽一時帰国するのは、
現地の政情不安や天災が主な原因で、発生した国に限られていました。
ところが今回のパンデミックによる一時帰国は、グローバルに一斉に起こり、
かつ長期化しているという、まさに前代未聞の事態と言えます。


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2020年11月1日発行 マロニエ通信 Vol.213より≫
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