2020年09月17日 (木)

国際WEB通話と税金

新型コロナウイルス感染症の影響で大きく社会が変わっていますが、
その一つの現れがWEB通話の浸透です。
Zoomなどの各種通話ツールが開発されたこともあって急速に普及し、現在では仕事でも
プライベートにおいても、欠かせないコミュニケーション手段となっています。
特に業務上では、原則として対面での会議やセミナーは行わないという企業も多数出現しています。

このWEB通話は、国境を越えても利用できるため、海外出張の代替とすることも可能です。
一方で、WEB通話の普及は、あえて海外に出るインセンティブにもなり得るのです。

ある大学より、
「英国人のE客員教授が、これまでは日本において対面で講義していたが、
コロナの影響で来日できないので、Zoomを使って英国居住のまま日本の学生向けに
講義を行うことになった。その報酬に対する課税関係はどうなるのか?」
というご質問をいただきました。

この講義は日本の大学向けですが、役務の提供は日本国外(英国)で行われているため、
この報酬は国外源泉所得となります。

E教授は日本国外(英国)に居住していますので、非居住者です。
非居住者に対する国外源泉所得は、所得税非課税となりますので、
大学は源泉徴収をする必要はありません。
(E教授は、この報酬を英国において申告納税する必要はありますが)  

また、E教授は、時として中国の大学で対面の講義を行う一方で、
中国滞在中も日本の大学向けにZoomで講義を行う予定とのことでしたが、
上述の考え方の通り、日本からの報酬については、所得税非課税の役務提供となります。


この方法を応用すると、例えば高給の社員が、シンガポールなどの
低税率国にある子会社に出向し、日本の本社向けにITを駆使して役務を提供すれば、
当該社員の節税が可能になりますし、既に実践している企業も存在します。

この構造は、世界的IT企業GAFA等が、無形資産を低税率国に移して
大規模な国際的租税回避を図っている事象と重なって見えます。
将来の富の源泉たる知的財産が、低税率国に集中しつつあるのです。

新型コロナウイルス感染症は、国際的な税金の偏在にまで影響を及ぼしています。
放置すれば、強者と弱者の格差はますます拡大するでしょう。
人類に求められているのは、医学的な叡智だけではないと言えます。

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2020年9月1日発行 マロニエ通信 Vol.211より≫
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