2025年05月29日 (木)

ところ変われば

少し前に、サンフランシスコ在住の弁護士およびヒューストンに移住された弁護士から、
現地の労働法制や社会保険制度について情報をいただく機会がありましたので、
共有させていただきます。
個人的に、日米で法体系が異なることは認識しておりましたが、
州による違いが、雇用・労働分野でもかなり大きいことに、強く印象付けられました。

1.任意雇用

米国では、日本と異なり、任意雇用(Employment-at-Will)の法理が適用され、
明らかな雇用契約条件がない前提で、差別など解雇理由が違法でなければ、
雇用主と労働者は、お互いに、いつでも、雇用関係を解消することができます(解雇、辞職の自由)。
基本的に全米で有効な法理ですが、唯一モンタナ州だけでは、適用されていないとのことです。

2.最低賃金

2025年1月現在(以下、同じ)、テキサス(TX)州では、連邦最低賃金の時給7.25ドルが適用されています。
一方、カリフォルニア(CA)州では、独自の最低賃金として、倍以上の16ドルが設定されています。
なお、大手ファストフードチェーン従業員は、20ドルです。

3.残業手当

TX州では、雇用主は、連邦法と同じく、40時間/週を超える労働に対して、
150%の賃金を支払う義務があります。
一方、CA州では、8時間/日を超える労働に対して150%、
12時間/日を超える労働に対しては200%の賃金を支払う義務があります。

4.有給休暇

米国では、連邦法レベルでは、民間労働者に対する有給休暇の付与が、義務になっていません。
CA州を含む、いくつかの州では、家族の介護など特定の条件の下、州法で付与を義務としています。
CA州の巨大IT企業などでは、年間40日以上の有給休暇が付与されています。
一方、TX州では、有給休暇付与自体が、義務ではありません。
また、CA州では、企業が、労働者の退職時に、休暇未消化分の金銭を支払う義務がありますが、
TX州では、未消化分を支払う義務はありません。

5.健康保険

よく知られているように、米国は、国民皆保険制度の国ではありません。
連邦法レベルでは、2010年に成立した医療保険制度改革法(ACA)、いわゆる「オバマケア」により、
週30時間以上働く労働者を50人以上抱える雇用主は、
労働者に健康保険を提供する義務を負うようになりました。
TX州は、この連邦法に則っており、州として追加の義務を課しておりません。
一方、CA州では、2020年1月より、全住民が、健康保険カバレッジを持つことが、義務付けられました。
住民は、適格の健康保険に加入するか、低所得等の理由で免除を受けるか、
州税の税務申告時に罰金を払うか、の選択を迫られます。
雇用主が、どのような健康保険を提供してくれるかが、労働者の生活水準に大きく影響してきます。

以上の項目を見ただけでも、
いかに日本の労働法制や社会保険制度が、労働者にとって手厚いものになっているか、
感じることができるのではないでしょうか。
また、日本では全国で同一の法制度が適用されますが、
米国では、州による違いが極めて大きく、まるで別の国のようです。

このことから、日本企業が米国に進出する際には、ロケーションを決定するにあたり、
大きな市場があるか、税制が有利か、といった点と共に、
現地の労働法制や社会保険制度についても調査し、
後でそのコストの大きさに驚くことのないようにする必要があるでしょう。



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≪2025年5月1日発行 マロニエ通信 Vol.267より≫
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