2025年05月22日 (木)

最低賃金引上げがもたらす課題と選択

令和7年1月、石破茂首相は施政方針演説において、
最低賃金を2020年代に全国平均 1,500円とする高い目標を掲げ努力するとしました。
今回は、昨今の最低賃金の引上げ状況とその影響について調査結果を基に振り返りたいと思います。

令和6年度の最低賃金引上げが中小企業に与えた影響

令和6年の最低賃金は、最高値は東京の1,163円、最低値は秋田県の951円、
労働者数も加味して算出した加重平均は1,055円となり、
令和5年の1,004円より過去最高の51円の引き上げとなっています。
「最低賃金を下回る従業員がいたため賃金を引き上げた」という中小企業の割合は全体の44.3%に上り、
地方では46.4%と、都市部の32.4%より大幅に高い結果でした。
特にパートタイム労働者が賃上げの対象となり、地方・小規模企業では負担感が顕著となっています。

各企業の現状への課題と対応

人件費増加への対応として、26.9%の企業が「価格転嫁」を行っていますが、
31.4%の企業は「具体的な対応が取れず収益を圧迫」と回答。
さらに、地方企業では「価格転嫁」の割合が都市部より低く、収益圧迫の問題が深刻です。
価格転嫁を行っている企業からも、「消費者から受け入れられがたい」
「原材料価格の高騰もあり結果的に追いついていない」という声もあり、
プロセス改善や設備投資の抑制等複数の施策を試みていますが、
どれも抜本的な解決に至っていないのが現状です。

政府目標への適応の難しさ

全国平均1,500円の最低賃金を目指す政府目標について、
目標の達成のためには毎年前年比7.3%程度の賃上げが必要になりますが、
74.2%の企業が「対応困難」または「対応不可能」と回答しました。
特に地方では4社に1社が「対応不可能」としており、
令和7年度に目標通りの引上げ(7.3%・89円)が実施されれば、
地方・小規模企業の20.1%が「事業継続が困難」との回答を示しています。
そのため、事業の縮小、採用・設備施設等への投資の抑制が行われることが懸念されています。

今後、政府主導で現状維持またはそれ以上の引き上げが続くことが想定され、
中小企業にとっては事業継続の危機すら懸念される状況にあります。
価格転嫁による売り上げの向上・DX化等によるコストの削減などの
複数の選択肢を模索していくと同時に、
政府による支援策等の動向にも注視していく必要があるでしょう。

参考:「中小企業における最低賃金の影響に関する調査」集計結果 日本商工会議所ならびに東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1205597



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≪2025年5月1日発行 マロニエ通信 Vol.267より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie