2024年05月30日 (木)

役員の海外派遣

経済のグローバル化と共に、中小企業が海外に拠点を持つことが増え、
さらには役員が駐在するというケースもあり得るようになってきました。
最近、複数の関連のご相談を受けましたので、留意点を纏めてみたいと思います。

Ⅰ.「役員」とは

「役員」は広く使われる用語ですが、その範囲は法律により異なります。

会社法上は、株主総会において選定され、
法人の登記簿に掲載された「取締役」「監査役」「会計参与」が該当します。
税法上は、それより広く、上記3役に加えて、
「理事・監事」「法人の経営に従事しているみなし役員」なども含まれます。

注意すべきは、「執行役員」の存在です。
「役員」という言葉が使われていますが、法律用語ではありません。
多くの場合、会社とは委任契約でなく雇用契約であり、
就業規則も適用される「労働者」にあたります。

Ⅱ.海外派遣役員の給与計算

ここで言う「役員」は、法人税法上の役員が該当します(所得税法第212条4項)。
一般に、給与所得者が1年以上の予定で海外に派遣されると、
非居住者」の扱いとなり、給与所得は非課税となります。

しかし、役員が海外で勤務した場合には、その給与は国内で生じたものとみなされ、
税率20.42%での源泉徴収が必要となります。

ただし、役員でも、現地で使用人として勤務している部分については、
非課税となります(使用人兼務役員)。

なお、代表取締役の場合は、使用人としての業務を行っていても、
給与全額が課税対象となります(所得税法施行令第285条1項)。

Ⅲ.海外派遣役員の社会保険・労働保険

① 社会保険
法人の役員は、報酬が日本の会社から出ているのであれば、社会保険加入の義務があり、
それは非居住者であっても変わりません。
国内で勤務している場合と、原則的な考え方は同じになります。
(社会保障協定の適用により、免除の可能性はある)

② 労働保険
会社と雇用関係でなく委任関係にある取締役などの場合は、雇用保険の対象になりません。
会社と雇用関係にある執行役員の場合は、海外派遣時も引き続き対象になります。

労災保険については、やや複雑で注意が必要です。
労災保険は、国内の事業所が対象となるのが原則ですが、
事前に手続きを行い労働局の承認を受けることによって、
海外派遣者であっても給付が受けられる「特別加入」の制度が存在します。

海外派遣の特別加入においては、
海外現地における事業が中小規模にあたれば(卸売業・サービス業であれば労働者数100人以下など)、
現地において事業主となる場合でも加入でき、
かつ日本国内の本社の規模は問われないことが、大きな特徴となります。

ただし、派遣される者は、日本国内の本社ではあくまで「労働者」である必要があります。
よって、委任関係である取締役は加入できませんが、
雇用関係である執行役員であれば、加入が可能です(労災保険法解釈総覧1062ページ)。

役員の海外派遣については、
「給与は20.42%源泉徴収、社会保険は適用、労働保険は適用なし」
と大雑把に語られることもありますが、
厳密には上記の点に留意が必要であり、グレーなケースでは当局に事前確認しておくべきです。


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≪2024年5月1日発行 マロニエ通信 Vol.255より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie