2026年02月26日 (木)

米国の労務監査

昨年12月2日の「社労士の日」に、
若林・全国社労士連合会会長が新聞紙上のインタビューで、
今般の社労士法改正により労務監査が条文に明記された意義を強調されていました。
弊社では、最近ご依頼いただくことの多い案件として、
M&A(買収・合併)やIPO(上場)に関する労務監査があります。
かなりの数の案件を承っておりますので、その経験値やノウハウは
社労士法人として高いものがあると自負しております。

一方、最近、米国での中小企業のM&Aの労務監査の経験をお持ちの
カリフォルニア(CA)州在住の弁護士の方からお話を伺う機会がありましたので、
共有いたします。
日米の労務監査は共通点も多い一方、相違点も多く、興味深い内容でした。

お話の中で特に重要と感じたポイントは次の2点です。
① 米国では、税法等と同じく労働法も連邦法と州法の両建てであり、
 州法によってより厳しい義務が雇用主に課せられていること(特にCA州)
② 米国は訴訟大国であり、常に従業員から訴訟されるリスクを意識した監査をすべきこと


その上で、以下の項目を、労務監査のポイントとして挙げておられました。

1.賃金・労働時間コンプライアンス
 連邦公正労働基準法(FLSA)および各州の最低賃金や残業代支払い、
 休憩時間の基準を満たしているか確認します。
 特に、残業代支払いの免除対象従業員(Exempt)と非免除対象従業員(Non-Exempt)との
 分類の適切さが重要であり、
 不適切な分類は集団訴訟(クラス・アクション)のリスクに直結します。

2.労働者の分類
 従業員(Employee)を独立業務請負人(Independent Contractor)として分類していないかを検証します。
 誤分類により、税・社会保険の問題が発生します。
 特にCA州では「ABCテスト」と呼ばれる厳しい基準が設けられており、
 例えばシェアライドのUberの運転手も、従業員として分類すべきという議論、訴訟がなされました。

3.雇用契約書と関連文書
 雇用契約書、就業規則(Work Rules)、競業避止義務契約書(NCA)等の合法性をレビューします。
 NCAの有効性は州によって異なり、特にCA州では制限的であるため、
 有効性は慎重に判断されます。

4.福利厚生と退職給付
 健康保険、企業年金制度(401Kなど)、その他の福利厚生プランの現状と将来の負債を評価します。
 米国の医療保険や退職年金の制度は複雑なため、
 M&AやIPO後の状態を見据えた詳細な分析が求められます。

5.労使関係と労働組合
 労働組合の有無、労働協約の内容、過去の労使紛争の履歴を調査します。
 米国では日本よりも労使紛争が多いのが現状です。

6.訴訟・規制当局からの調査履歴
 過去および係争中の雇用関連訴訟(ハラスメント、差別、違法解雇など)、
 労働局(DOL)や雇用機会均等委員会(EEOC)など政府機関からの指導・調査履歴を確認します。

7.移民法コンプライアンス
 従業員の就労資格届(FormI-9など)が適切に管理されているかを確認します。
 トランプ政権下では細心の注意が払われるべき分野です。

8.進め方
 一般に、専門家(弁護士やコンサルタント)の協力を得て実施します。
 データ情報のレビューや人事担当者のヒアリングを通じてリスクを洗い出します。
 評価後、上場計画や買収後統合計画(PMI)に反映させます。

日本は、法体系も社会の成り立ちも労働慣習も米国とは異なりますが、
特に「働き方改革」以降、これらが米国寄りになってきました。
今後の労務監査において、米国的な視点も参照すべき時期が近づいているのかも知れません。

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≪2026年2月1日発行 マロニエ通信 Vol.276より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie