2025年10月30日 (木)

越境テレワークに関するアップデート

コロナ禍を経て、一気にテレワークが普及し、
国境を越えたテレワークも珍しい存在ではなくなってきました。
一方、労働法や社会保険関係法は、実態に追いついていない面も見られます。

以前も、越境テレワークの留意点について取り上げましたが、
最新の論点に関し、共有させていただきます。

1.雇用保険の継続・喪失
雇用保険に関する業務取扱要領(令和7年4月1日版)のp24には、
国外で就労する者につき、雇用関係が継続している限り被保険者となる
と記載されています。

ハローワークでは、この記載に基づき、
日本国内で勤務していた日本国籍の従業員が、
海外赴任する配偶者の帯同家族となる等により海外居住地から越境テレワークを行う場合には、
雇用保険の被保険者資格は継続すると回答しています。

一方、外国人従業員が、本人都合で母国に帰国し、越境テレワークを行う場合については、
情報公開請求に基づく疑義照会(令和3年1月5日付)に対し、東京労働局は、
業務取扱要領の『国外で就労する者』とは、事業主の命による者のことをいい、
 本人都合で転居する場合は、国外における就労が臨時的・一時的であるものを除き、
 被保険者資格は喪失すべきと考えます」
と回答しています。

このように、従業員の国籍や滞在期間により、継続・喪失の判断が変わることがあるので、
ケース毎に確認する必要があると考えられます。

2.社会保障協定が存在する場合の社会保険
通常の海外出向の際でも、社会保障協定の有無は確認する必要がありますが、
越境テレワークの場合は、更なる注意が必要になります。

海外出向の予定期間が 5 年以内の場合には、出向元の会社が
「社会保障協定適用証明書交付申請書」に相手国で就労する事業所名・所在地等を記入して、
管轄の年金事務所等に提出します。

申請が認められると、適用証明書が発行され、これを相手国の当局に提示することにより、
相手国での社会保障制度への加入が免除されます。
しかし、越境テレワークでは、相手国での事業所名・所在地等が存在しないので、
申請書への記入ができず、適用証明書が発行されないことになります。

この場合、相手国に強制加入の社会保障制度があれば、
そのルールに従うことになり、二重加入を防止するため、
日本の年金制度は資格喪失することになります(例:日英社会保障協定第 4 条1)。

実際に経験された社労士の方によれば、日本年金機構の調査が入った際も、
日本の社会保険未加入の指摘はされなかったとのことです。
越境テレワークが始まったばかりの時期には、
「社会保障制度の二重加入もやむを得ない」と説明していた年金事務所もありましたので、
日本の当局の対応も改善してきたと言えるでしょう。
なお、厚生年金保険の任意加入により、将来の日本からの老齢年金受給額を増やす、
という選択肢はあり得ます。

3.その他
そもそも、越境テレワークは新しい概念であり、
どこまで現行の日本の労働法が適用されるか自体も、難しい問題です。

立法による早急な解決は見込まれない現在、専門家へ助言を求めることも重要です。

…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*….*…..*……*…..*…..*…..*…..*…..*…..*
≪2025年10月1日発行 マロニエ通信 Vol.272より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie