2025年07月17日 (木)

スポットワークの労務管理上の課題

「スキマバイト」という言葉が定着してきたように、アプリ上の手続きのみで雇用関係が成立、
単発(短期間)・賃金即払いも可能というスポットワークの形態で働く労働者、
その形態で雇用する企業がここ数年で急増し、注目を集めています。

柔軟な働き方・雇用ができるといったメリットがある一方、
労務管理上の課題・問題点も表面化してきておりますので、情報を整理いたします。

スポットワークの定義

企業や特定の団体に所属せず個人で仕事を請け負うという点から、
最も広い意味ではフリーランスと言えます。
その中で短時間・単発の働き方を広義のスポットワーク(ギグワーク)
さらに雇用契約が成立したうえで就業する形態が狭義のスポットワークとされ、
いわゆる「スキマバイト」はこれに該当します。((一社)スポットワーク協会による定義)

狭義のスポットワークは、下記の特徴が挙げられます。
1.労働契約が成立するまでの全ての工程が、雇用仲介業者
  (プラットフォーマー。(株)タイミー等)のアプリで完結する
2.原則履歴書の提出や面接が無く、アプリ上で求職者と求人企業が
  お互いの情報を判断してマッチングすれば雇用関係が成立する
3.給与の即日払いも可能(立替払い)
4.お互いの意向が合えば、正社員登用の可能性もある

労務管理上の注意点・課題

労働者・企業とも柔軟に雇用関係を結べることが最大のメリットである反面、
雇用後の労務管理には多くの課題があると言えます。

労働時間の把握
 労働基準法では、事業場を異にする場合でも労働時間を通算し、
 法定労働時間を超える場合は割増賃金を支払う必要があります。
 スポットワークも例外ではないため、労働時間をきちんと管理していく必要があります。
 また、単発でも積み重なって月額賃金 88,000 円を超え、
 社会保険の対象となる可能性もあります(上限設定されているアプリもあります)。
 しかし他事業場での勤務状況(本業があるのか・他のアプリでもスポットワークしているのか等)
 を把握することは困難であり、
 現状では自己申告に頼らざるを得ないのが大きな課題と言えます。

業務内容の説明、安全教育等の徹底
 日本労働組合総連合会の「スポットワークに関する調査2025」によると、
 スポットワークで就業先から業務内容について
 「説明を受けたことがない」と回答した労働者が 24.5%となっており、
 短期間・単発ゆえに説明が蔑ろになっている可能性があります。
 特に運送業、製造業等では雇入れ時に安全教育を実施することが
 安全衛生法で定められており(労働時間に含む)、徹底する必要があります。

労災事故発生時の対応
 短時間の労働であっても、労災保険の対象
となります。
 労災事故に遭った労働者が別に本業があった場合、
 複数業務要因災害として給付基礎日額の計算等が合算して判断されることも考えられます。
 この場合、①に記載の通り他事業場の情報把握が困難であることから、
 手続きが煩雑となることが懸念されます。

キャンセルした場合の補償
 労働基準法では、雇用主の責に帰すべき事由による休業の場合、
 労働者に平均賃金の 60%以上の休業手当を支払う必要があります。
 一旦雇用契約が成立した後に企業側の都合でキャンセルした場合、
 休業手当が必要となる可能性があります。

スポットワークの急速な普及スピードに、労務管理面が追い付いていないことは否めません。
今後制度が整備されていくと考えられますが、時間管理や安全教育といった、
やるべき事はしっかり対応していくことが大切です。

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≪2025年7月1日発行 マロニエ通信 Vol.269より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie