2025年01月30日 (木)

雇用労働政策の大改革

「もしトラ」どころか、「またトラ」となることが決定しました。
本年1月20日に米国大統領就任予定のトランプ氏は、どのような政策を実行していくのか、
世界中が固唾を飲んで見守っています。
本稿執筆時点では、あっと驚くような政権人事案がメディアを賑わせていますが、
現実の政策は、その驚きを超えるものになるでしょう。
通商・経済や安全保障に関する議論が花盛りですが、
ここでは雇用労働政策に関して述べたいと思います。

JETROとリクルートワークス研究所が、
民主党と共和党がそれぞれ昨年発表した政策綱領 (Platform)を分析した、
興味深いレポートを公表しています。
民主党の政策綱領は、92ページに渡り、今後4年間の優先事項が過程を含めて詳しく述べられています。
共和党のものは、僅か16ページで、政策目標が簡潔に纏められています。
両党の政策には明確な違いがありますが、雇用労働政策に深く関わる分野は、
以下のようにレポートに纏められています。

➀雇用 – クリーンエネルギー関連職 vs 製造業
 民主党は、クリーンエネルギー産業への投資と同分野での職業訓練の拡大により、
 クリーンエネルギー関連職での雇用を増やすことを目指していました。
 これに対し、共和党は、アウトソーシングをやめて米国を製造業大国にすると宣言し、
 米国内サプライチェーンを復活させて、雇用を創出するとしています。

➁移民対策 – 制度改革 vs 移民の阻止
 民主党は、移民制度を修復して、合法的移民への道を拡げ、
 市民権への道を提供するとしていました。
 一方、共和党は、国境を封鎖して移民の侵入を阻止し、
 米国史上最大の国外追放作戦を実行すると、刺激的な文言を並べています。

③経済政策 – 公平な成長 vs 規制緩和
 民主党は、企業や富裕層が公正な税金を払うことと、
 クリーンエネルギーとテクノロジーへの大規模な政府投資により、
 良質の雇用を創出し、経済的不平等を縮小する、としていました。
 共和党は、経済への政府介入を減らし、規制緩和と減税を実行すると強調しています。

よって、今回トランプ氏が再選されたことにより、
米国の重点雇用産業分野、移民のステイタス、経済への政府の関与程度、税制のあり方は、
これまでのバイデン政権とは、大きく変貌することが予想されます。

しかし、一方、雇用労働法制に目を転ずると、民主・共和両党とも、大きな改革は掲げていません。
米国の雇用労働法制は、採用時等の差別には厳しいが、
それ以外の働き方に関しては、雇用者・被雇用者間の自由契約に委ねられる部分が大きいこと、
連邦法は最低限の強行規制を行い、多くは州法に委ねられているという特色を持ちますが、
ここに大きな変革はないものと思われます。

これに対して、日本では、昨年成立した改正育児・介護休業法が、この4月から施行されますし、
来年の4月からは改正雇用保険法も施行されます。
そして、何より、「103万の壁」撤廃が大きな政治的議論となり、
厚労省の労働基準関係法制研究会では、労基法の「40年に一度の大改正」が俎上に上っています。

法的な側面からは、「雇用労働政策の大改革」は、
米国よりむしろ、日本で起こるのかも知れません。

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≪2025年1月1日発行 マロニエ通信 Vol.263より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie