Theme
Month
脱退一時金の請求手続きは、必要書類を含む手続き自体は複雑ではなく、
むしろ年金事務所側に不慣れな職員が多いというのが、率直な印象です。
一方で、最近は、帰国して脱退一時金を請求した外国人労働者が、
その後に日本に再入国してまた働くケースが増えてきています。
そもそも脱退一時金制度は、外国人労働者の社会保険料の掛け捨てを防ぐ趣旨で、
平成7 年に創設されました。
一般に、外国人労働者は、日本での滞在が短く、
保険料を納付しても、老齢年金が給付されない場合が多かったためです。
つまり、日本に戻らない前提で創られた制度なのです。
しかし、今では、外国人技能実習制度と特定技能外国人制度が発展し、
本国への一時帰国の場合でも請求できることが、はっきり認められています。
例えば、外国人技能実習機構のHPには、
「3号技能実習生として実習を受けようとする方が、脱退一時金の受給を希望する場合には、
技能実習計画で決められた一時帰国時、および技能実習3号終了後の帰国の都度、
請求していただくこともできます」
と記載されています。
また、日本年金機構のHPには、
「技能実習1号・2号の実習期間(3年間)が終了、
一時帰国後に特定技能1号として日本に再入国し5年間在留する予定の場合は、
一時帰国する時と、特定技能1号終了後に帰国する時の2回に分けて、請求してください」
と明記されています。
このように、脱退一時金は、一時帰国時でも請求できる場合があると行政側が明示していることから、
技能実習生関係でなくとも、脱退一時金は一時帰国時に請求できる、
という解釈が拡がりつつあるようです。
ここで、脱退一時金支給の法的要件を確認すると、
日本国籍を有していない等7つありますが(厚生年金保険法附則第29条1項)、
将来的に日本で再び年金制度に加入しないという条件はありません。
主に、社会保険の資格喪失と日本国内に住所がないという要件を満たせば、
脱退一時金の請求はできるものと解されます。
一方、脱退一時金の請求は、外国人労働者自身が行うものであり、
その責任は個人に帰しますが、事業主側の責任は生じないのでしょうか。
厚生年金保険法第14条2には、
「資格の喪失の時期は、その事業所または船舶に使用されなくなったとき」
と規定されています。
よって、雇用契約が継続している一時帰国の場合は、休職扱いにすべきであり、
資格喪失は適切でない、という解釈も可能です。
このように、専門家でも判断が難しいのが現状ですので、
厚労省や年金機構が、請求できるケースとそうでないケースを、
基準と具体例を示しながら公表して欲しいと感じております。
なお、上記とは別筋の話ですが、最近では、外国人が帰国する際に、
住民税の未払額を支払わない問題もクローズアップされており、
一部の市町村では、脱退一時金の差押えを実行しています。
脱退一時金は制度として定着していますが、
今後も新たな課題が発生する可能性はありますので、注意が必要です。
…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*…..*….*…..*……*…..*…..*…..*…..*…..*…..*
≪2024年11月1日発行 マロニエ通信 Vol.261より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie