2024年10月31日 (木)

越境テレワークを巡る最近の論点

最近とても多いご相談の一つに、越境テレワークを巡る問題があります。
それも、配偶者の海外赴任に帯同し、現地に居住しながら、
在籍する日本の会社のため、役務を提供するというケースが多くあります。

この場合、給与計算は比較的シンプルですが、
労務管理と社会保険には、特別な留意が必要となります。

①給与計算
 テレワークであれ、非居住者が日本国外において役務提供するのであれば、
 日本の所得税は非課税となります。

 一方、配偶者の赴任国に居住していますから、当該国の所得税制に服し、
 現地での申告・納税が必要になります。

➁労務管理
 越境テレワークの場合、労基法を中心とした日本の労働法が、どこまで適用されるのかというのは、
 新しく、複雑な問題です。

 労働法には、刑事法的側面・行政法的側面・民事法的側面が混在していることにより、
 学説・判例ともに、理論的に決着しているとは言えません。
 ただ、労基署に確認すると、
 「越境テレワークでは、事業所は日本にあると考えられるので、日本の労働法が適用される」
 と回答されることが多いようです。
 それを基本と考えつつ、現地の強硬法規は遵守する方向で、
 個別事項ごとに対応するのが、現実的と考えます(例:休日は現地法令に合わせるよう、労働条件を変更)。

 また、越境テレワーク用の社内規程を作成しておくことは、
 会社のためにも、被用者のためにも、有益と言えます。

③社会保険
 厚生年金保険法第9条は、被保険者として、居住者要件を付していません。
 よって、一般の海外赴任同様、越境テレワークの場合でも、
 本給が日本の会社から支給されているのであれば、被保険者資格は継続することになります。

 ここで最近問題になっているのは、年金事務所から、
 「越境テレワークには、社会保障協定は適用されません」と回答されることが多いことです。
 これは、実務上、社会保障協定を用いた社会保険料の二重払い回避の手続きは、
 出向元の会社が「社会保障協定適用証明書交付申請書」に、
 「相手国の事業所名・所在地」を記載して年金事務所に提出し、
 申請が認められると、交付された「適用証明書」を相手国の当局に提出する、
 という流れになっているためです。

 ところが、越境テレワークでは「相手国の事業所名・所在地」が存在しません。
 このため、越境テレワーカーは、「適用証明書」を交付されず、
 相手国滞在が5年を超えない場合でも、現地での社会保険加入を求められ、
 社会保険料の二重払いとなる惧れが出てくるのです。

 しかし、例えば日英社会保障協定の第四条1には、
 「強制加入に関しては、ある者が一方の締結国の領域内において就労する場合には、
 その者に対して当該一方の法令を適用する」とあり、
 第五条1においては、
 「他方の締結国の領域内において就労するために派遣される場合には、
 その派遣期間が5年を超えるものと見込まれないことを条件として、
 その者が当該一方の領域内で就労しているものとみなして、
 当該一方の締結国の法令を適用する」とあります。

 すなわち、協定の条文上、社会保険料の二重加入の回避が大原則であり、
 現地の事業所で勤務することは求められておらず、適用証明書が必須とも規定されていないのです。
 このため、現行の年金事務所の扱いに疑問を呈する専門家が増えています。

越境テレワークは、新しい就労形態であり、
現行法令や行政の執行現場が、現実に追いついていない面は多々あると思われます。
早急な立法・行政の改善が望ましいですが、当面の間は、専門家の知見を活かしながら、
現実的に対応いただければと存じます。


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≪2024年10月1日発行 マロニエ通信 Vol.260より≫
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