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最近、海外赴任に関するご相談が再び増えていますが、その内容は複雑化しています。
オンライン勤務、帯同配偶者の就労、社会保障協定の上限期間を超えた赴任など、様々です。
ただ、どのような場合でも、会社が基本となる書面を揃えていれば、
それを出発点として、問題が解決しやすいと考えられます。
我が国の労働法上で、海外赴任者に関して策定が義務となっている書類は存在しませんが、
一般に、
①海外赴任規程
②海外赴任(出向)条件通知書
③出向社員取扱協定書
を揃えておくべきと言われ、「三点セット」とも呼ばれます。
①海外赴任規程
海外駐在員に適用される、海外赴任時の処遇について定めた規程です。
勤務条件(労働時間、有給休暇等)、赴任・帰任、給与・手当、現地の税・社会保険、
福利厚生、一時帰国、子女教育などにつき、会社のポリシーを周知するものになります。
策定の法的義務はないため、同規程のない会社も散見されますが、
会社として社員間の公平な扱いの基準となりますし、
社員も安心感が得られますので、策定することが望ましいものです。
➁海外赴任(出向)条件通知書
会社と海外赴任者との間で取り交わされる、個人ごとの赴任期間中の処遇に関する通知書です。
法的意味としては、国内の子会社等への出向者のものと変わりません。
海外赴任の場合は、給与・手当の体系や勤務条件等が大幅に変わりますので、
事前に十分説明し、理解を得ておく必要があります。
③出向社員取扱協定書
出向元と出向先との間で締結される、駐在員の処遇およびその関連事項についての定めです。
会社間の契約である点が、①②とは異なります。
内容的には、①②とすり合わせたうえで、駐在員の勤務条件や給与・手当の他、
年次有給休暇の扱い、退職金の扱い、現地の税・社会保険の扱い等について定めます。
特徴的かつ重要な項目は、駐在員の人件費を中心とする経費の精算に関する規定です。
これにより、出向元と出向先との間での、経費負担割合とその精算方法(時期、送金方法等)が定められます。
その出向元の費用負担割合が高すぎると、日本の国税から、
移転価格税制または寄附金課税の適用を指摘される惧れがあるため注意が必要です。
同協定書を作成していない会社も見かけますが、
特に資本関係のない海外取引先等への出向の場合であれば、
金銭面でも以心伝心、後で気軽に修正できるという訳にいきませんので、
揉め事を避けるため、しっかり定めておく必要性が高いものです。
この「三点セット」は、比較的規模の大きな企業でも完備されているとは限らず、
逆に小規模企業でも整備されているところはあります。
出向元、出向先、そして駐在員という関係者全てにとってメリットのある書面整備ですので、
ぜひ前向きに導入されることをお勧めいたします。
もちろん、策定すれば良いというものではなく、
現行法令(労働法・税法等)および時勢に合ったものにする必要がありますので、
専門家にご相談いただければと存じます。
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≪2024年9月1日発行 マロニエ通信 Vol.259より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie