2024年08月29日 (木)

育成就労制度の実務への影響

去る6月14日、改正出入国管理法などが参議院で可決、成立しました。
税や社会保険料の納付を故意に怠った外国人は永住許可を取り消しできるようにする、
マイナンバーカードと一体化した「特定在留カード」を発行できるようにする、
といった内容も含まれますが、
最大の眼目は、技能実習制度に代わるものとしての「育成就労」制度の創設です。

現在、技能実習生を雇用している会社は増加しており、今後の実務への影響は必至となります。
育成就労制度は、改正法公布から3年以内、すなわち令和9年6月までに施行されますので、
それまでに備えねばなりません。

メディアでは、技能実習制度が無くなること、
および転籍ができるようになることを大きく取り上げていますが、
それら以外に変更される点も、実務的には重要です。
前提として、国際的に現代の奴隷制度とまで非難されてきた、技能実習制度の
名前を無くすことが政府にとって重要であったため、看板は付け替わりましたが、
制度の大きな枠組みは残され、その範囲内で改正されたという表現が的確かと思われます。

以下、主要なポイントを纏めます。

1.在留資格としての「技能実習」を廃止し、「育成就労」を創設
2.目的は、「国際協力」から「人材育成と人材確保」に変更
3.3年間の期間中に、「特定技能」の水準まで育成する
4.日本語や技能の一定の水準達成および1~2年の制限期間の後であれば、

  本人の意向による転職が可能
5.転職の仲介ができるのは、ハローワークと監理支援機関のみ
6.受け入れが可能な産業分野と業務区分は、「特定技能」と一致
7.監理支援機関は、外部監査人の設置が義務化され、受入企業からの独立性が求められる

    よって、国際協力の名の下、短期的に人材が回転する前提であった制度(技能実習)から、
    「特定技能」制度と一体化した、長期的な人材育成・確保のための制度(育成就労)に
    模様替えしたと言えるでしょう。

    これは、受入企業や監理支援機関から見れば、
    長期的な労働力を確保できるというメリットがあることになりますが、
    一方、転籍に対する対応、段階的に日本語能力を習得させる義務、
    外部監査に堪えうる労務管理、という責任を負うことになります。

    なお、受入企業や監理支援機関にとって一番気になる転籍については、
    ①「やむを得ない場合」の明確化と②「本人の意向」による場合が定められています。

    ①について、「労働条件の相違」も理由として認められていますので、
    誤解のない労働条件通知が必要となるでしょう。
    ②については、上記4.の条件をクリアすれば可能となっていますので、
    受入企業や監理支援機関は、本人から申出を受け取った場合の業務フローを構築しておく必要があります。

    上記の如く、「育成就労」は、「技能実習」と比べて、
    対象外国人を一人前の労働者として扱っていることが明らかであり、
    その分、適切な労務管理が、最大のテーマとなってきます。

    弊社は、労務管理の専門家集団として、受入企業や監理支援機関の方々にお役に立てるよう、
    準備を進めて参る所存です。



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    ≪2024年8月1日発行 マロニエ通信 Vol.258より≫
    https://www.arcandpartners.com/info/maronie