2025年08月28日 (木)

米国の雇用ルール

長年、日系企業米国現地法人の雇用・労務の相談を担当してこられた弁護士の方から、
米国の雇用ルールに関する興味深いお話を伺いましたので共有いたします。

1.‘Employment-at-Will’と差別

米国における雇用の根本原則に、‘Employment-at-Will’があります。
直訳すれば「自由意思による雇用」となり、雇用主および被雇用者は、
いつでも、その理由を問わず、解雇または退職ができることを意味します。

これにより、雇用主はフレキシブルな経営を、
被雇用者は自由なライフスタイルを追求することができますが、
反面、雇用主にとっては優秀な人材を長期的に雇用することが難しく、
被雇用者は自分の意思に関係なく解雇される可能性があることを意味します。

この‘Employment-at-Will’が、米国雇用での大原則であることは間違いないのですが、
原則があれば、例外もありますので、注意が必要です。

雇用主が最も気を付けるべきは、
「差別」(discrimination)に関するものです。
「その理由を問わず解雇できる」と言っても、
それが「差別」に該当すると判断されると、法的に無効となります。

そして、雇用に関する差別を禁止する法律は、
連邦法(公民権法:The Civil Right Act of 1964)だけではありません。
公民権法では、人種・宗教・出身国を理由とする差別が禁じられていますが、
例えば、カリフォルニア(CA)州では、
性別・LGBT・結婚の有無を理由とする差別が、禁止事項として規定されています。

差別の有無は、線引きが難しく、当人に悪気がなくとも、相手が差別を受けたと判断し、
客観的にそれを主張しうる証拠があれば、訴訟となってしまう可能性は高くなります。
米国は、訴訟大国であり、実際に訴訟に発展すると、
会社が使う時間・労力・費用は、莫大なものになります。
このことから、米国では、雇用関係の相談ができる弁護士と契約しておくことは、重要と言えます。

2.採用時の留意点

関連して、採用時の留意点としては、
Job Description(職務記述書)と面接での質問事項が重要となります。

米国では、採用時に、具体的な業務内容、必要な能力、期待される成果物などを、
詳細に明記しておくことが重要です。
これらが曖昧だと、
「これであれば自分も達成できており、不採用になったのは差別が理由である」
と訴えられる可能性があります。

また、米国雇用機会均等法(Equal Employment Opportunities:EEO)に基づき、
面接の場における、個人の仕事の能力に直接関係のない質問は、
「差別」と主張されるリスクがあります。
年齢や家族構成もNGです。
この連邦法上での規定に加えて、CA州では、
結婚の状況や犯罪履歴についても、質問してはならないそうです。

3.雇用期間中の留意点

昇格や人事異動を判断するに当たり、
業績や能力を公正に評価していると説明できないと、差別によるものと追及され、
場合によっては訴訟の対象となります。

SNS大国らしく、米国では、SNSにまつわるトラブルが、極めて多いとのことです。
会社の機密情報や誹謗中傷を開示させないことも重要ですが、
社員間のプライバシーやハラスメントに関しては、細心の注意が必要です。
安易な友達申請はさせない予防策が、推奨されているそうです。

税法にも当てはまりますが、米国での考え方が、時間差をおいて、
日本の制度に影響を与えるという事象が、年々増加していると感じられます。
拙文が、ご参考になれば幸いです。

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≪2025年8月1日発行 マロニエ通信 Vol.270より≫
https://www.arcandpartners.com/info/maronie